リンの薬(リン吸着剤)

リンの薬と言うと、体内からリンを取り出してくれると考えている人がいる

かもしれませんが、リン吸着剤は食事中に含まれるリンと結合し、体内に

吸収させず便から排出することにより体内のリン濃度を低下させます。

リンの薬は大きく分けて現在6種類あり選択肢の幅は広がりましたが、

それぞれ一長一短があり患者さんにより使い分けが必要です。

 

1、乾燥水酸化アルミニウム・ゲル(アルミゲル®など)

  現在透析患者さんには使用禁忌です。

  書こうか迷いましたが若い栄養士さんに透析の歴史を知ってもらいたく

  書くことにしました。この薬は透析初期から使われており、現在のリン

  吸着剤より効果があると思われます。ただし、アルミニウムは体内から

  排出されにくく、長期服用(約20年以上)するとアルミニウム脳症

  (アルツハイマー認知症に似た症状)、アルミニウム骨症(骨がもろく

  なり骨折しやすくなる)などが発症しやすくなることが分かり現在は

  使用禁忌になりました。

 

2、沈降炭酸カルシウム(カルタン®など)

  カルシウムとリンが結合することにより体内へ吸収されないようにする

  薬です。250mgと500mgがありますが、当院では500mgに統一

  しています。薬はmg数が違うものがあるため、薬品名だけではなく

  mg数も確認しましょう。

  用量:1日3,000mg以下(500mgの場合1日6錠以下)

     食直後(食直前~食直後でもほぼ問題なし)

  長所:効き目は比較的大きいです

  短所:カルシウムが含まれている薬のため、血中カルシウムが高く

     なると使用できません。まれに胃酸を抑える薬を飲んでいる

     患者さんが服用すると効果が落ちるときがあります。

 

3、セベラマー塩酸塩(レナジェル®、フォスブロック®)

  リン結合性ポリマーがリンを体内に吸収されないようにする薬です。

  この薬は250mgのみです。カルタン®500mg1錠に対して2錠で

  同等の効果がありそうですが、実際はカルタン1錠に対して同等の

  効果を得るには3錠程度必要と思われます。

  用量:1日9,000g以下(1日36錠以下)

     食直前(食直前~食直後でもほぼ問題なし)

  長所:血中のカルシウムを上げずにリンを下げます

     コレステロールなどを下げる効果も報告されています

  短所:他の薬より多く飲まないと効果が出ない

     お腹の張り、便秘などを起こしやすい(約40%)

 

 

4、炭酸ランタン水和物(ホスレノール®)

  金属のランタンがリンと結合することにより体外へ排出する薬です。

  最初はチュアブル錠しかなく粉々に噛み砕いてから(20回以上は噛む)

  飲む薬でしたが、現在は粉薬の形態もあります。250mgと500mgが

  あります。ホスレノール®250mgとカルタン®500mgがほぼ同等の

  効果と思われます。

  ホスレノール®OD錠(口の中で崩壊し唾液で飲むことが出来る)が

  2017年6月に発売されました。

  用量:1日2,250mg以下(250mgの場合9錠以下)

     食直後(食前は副作用が出やすいため止めましょう

  長所:少量で効果が高いです(正常値以下まで低下するときもあり)

     チュアブル錠は水がなくても飲めます

  短所:海外を含めて10年以上の実績はありますが、長期服用したときに

     副作用の可能性あり(アルミゲルのような)

     服用後に胃もたれ、むかむか感が起こる可能性があります

 

5、ビキサロマー(キックリン®)

  セベラマー塩酸塩と同様にリン結合性ポリマーがリンを体内に吸収され

  ないようにする薬です。この薬は250mgと顆粒があります。カルタン®

  500mg1錠に対して約2.5錠でほぼ同等の効果があると思われます。

  顆粒は2016年12月に発売されていましたが、2018年2月に初めて

  知りました^_^;

  用量:1日7,500mg以下(1日30錠以下)

     食直前(食直前~食直後でもほぼ問題なし)

  長所:血中のカルシウムを上げずにリンを下げます

  短所:セベラマー塩酸塩ほどではありませんが、便秘などの副作用が

     起こることがあります(約16%)

 

6、クエン酸第二鉄水和物(リオナ®)

  2014年に発売されたリン吸着剤です。鉄とリンが結合することにより

  体内へ吸収されないようにする薬です。この薬は250mgのみです。

  当院では使用実績が少なく他のリン吸着剤との比較が難しいですが、

  ホスレノール®250mg1錠に対してリオナ®1錠でほぼ同等と思われます。

  用量:1日6,000mg以下(1日24錠以下)

     食直後

  長所:血中のカルシウムを上げずにリンを下げます

     鉄不足の患者さんには良い可能性あり

  短所:肝不全の患者さんは鉄蓄積の可能性があるため慎重投与

     長期の服用実績がない

     服用後に軟便、下痢を起こす可能性あり(約10%)

     便が黒くなりやすく消化管出血と間違えることがあり(鉄の影響)

     血液が濃くなりすぎることがあり(栄養状態が悪い患者さんでも

     起こることがあり) 

 

7、スクロオキシ水酸化鉄(ピートル®)

  2015年11月より販売されました。リオナ®と同様に鉄とリンが結合する

  ことにより体内へ吸収されないようにする薬です。この薬は250mgと500mg

  の2種類があり、噛んでから服用するチュアブル錠です。ピートル®は

  リオナ®より水に溶けやすいため2、3回噛んで少量の水と飲むことで

  効果が得られます。ドーナツ型をしており、噛まずに飲み込んでも安全性が

  ありそうです。使用実績が少なく他の薬と比較が難しいですがピートル®

  250mgでホスレノール®250mgとほぼ同等と思われます。

  用量:1日3,000mg以下(1日250mg12錠、500mg6錠以下)

     食直前

  長所:血中のカルシウムを上げずにリンを下げます

     鉄不足の患者さんには良い可能性あり

     ホスレノール®より水に溶けやすく、粉々になるまで噛み砕く必要が

     ない(2、3回でも問題なし)

  短所:肝不全の患者さんは鉄蓄積の可能性があるため慎重投与

     長期の服用実績がない

     服用後に下痢を起こす可能性あり(約23%)

     便が黒くなりやすく消化管出血と間違えることがあり(鉄の影響)

 

  同じ鉄剤ながら下痢の副作用の数値に違いがあります。当院の患者さんの

  リオナ®、ピートル®の服用実績を見ていると2~3割程度(もう少し多い

  かも)は下痢の副作用が出ていると思われます。リオナ®またはピートル®

  のどちらかで下痢を起こす患者さんはどちらも下痢の可能性が高いです。

  今後の使用実績が注目です。

  栄養状態が良い患者さんに鉄剤のリン吸着剤を使用すると血液が濃くなり

  すぎる傾向があります(ヘモグロビン、ヘマトクリットの上昇)。その後の

  経過を見ていると栄養状態の悪い患者さんに使用しても血液が濃くなることが

  多いです(栄養状態の数値が低いが、貧血がない患者さんは服用している

  可能性が高いです)。

  リオナ®は他のリン吸着剤と組み合わせて使用することが多いです。

  ピートル®は服用後ヘモグロビンなどが1~2週間は少し上がり、その後は

  あまり上がらないという治験結果がありますが、今後の実績が注目です。

  

 

まとめ

週3回4時間透析では食事のみでリン制限を行うことはかなり難しいです。

無理なリン制限は栄養不足につながりやすく、その結果透析患者さんの

生活の質を落としかねません。

しっかり食べて、しっかりリン吸着剤を飲むことも選択肢だと思います。

患者さんの考え方に合わせると共に栄養士は患者さんの服用状況も確認する

ことが重要です。毎食薬を飲むことは大変なことですが、きちんと飲めば

きちんと効果があるため患者さんには丁寧に説明しましょう。

リンの数値が下がると独自にリン吸着剤を止める患者さんがいるため数値の

流れを確認しましょう。

 

この資料は2018年現在発売されているリン吸着剤の資料です。

薬剤の写真と共に解説がされておりとても分かりやすい資料です。

ある製薬企業の営業さんから頂きましたが、企業名は公表しないでほしいと

言われています。

もしどうしても製薬企業からもらいたいという方がいましたらお問合わせに

書き込み願います。